学校給食費「公会計化」への対応が必須に 文部科学省の政策動向

学校教員の業務負担軽減に向けて、文部科学省は学校給食費を自治体の会計に組み入れる「公会計化」を推進している。なぜ公会計化が必要なのか。その背景と公会計化で生まれるメリット、自治体と教育委員会に求められる取り組みについて解説する。

教員の業務負担軽減に向けて、文部科学省は学校給食費を自治体の会計に組み入れる
「公会計化」を推進している(写真はイメージ)

給食費公会計化の背景

社会問題化している学校教員の長時間勤務。2016年に公立小学校・中学校の教員を対象に実施した教員勤務実態調査では、教員の1週間当たりの学内勤務時間が小学校で57時間29分(2006年度比4時間13分増)、中学校で63時間20分(同比5時間14分増)に達し、小学校教員の33.4%、中学校教員の57.7%は過労死ライン(月80時間以上の時間外労働)を超えていることが明らかになった。

長時間勤務の背景には、総授業時間や部活動指導の増加のほか、授業以外の事務作業の負担の大きさなどが存在する。学校では、ITなどを活用した事務作業の負担軽減や働き方改革を進め、教員が本来業務に集中できる環境をつくらなければならない。

学校の事務作業は、成績処理やクラスだよりの作成、保護者からの給食費や教材費の徴収などさまざまだ。

状況の是正に向けて、中央教育審議会は2019年1月の答申において、「学校給食費や教材費、修学旅行費などの学校徴収金について、未納金の督促等も含めたその徴収・管理について、基本的には学校・教師の本来的な業務ではなく『学校以外が担うべき業務』であり、地方公共団体が担っていくべきである」と提言した。

これを受けて文部科学省は同年7月、自治体における学校給食費の公会計化を促進するとともに、保護者からの学校給食費の徴収・管理業務を自治体が自らの業務として行うことを促進するため、「学校給食費徴収・管理に関するガイドライン」を作成・公表した。

表 学校給食費の公会計化等により見込まれる効果

出典:文部科学省「学校給食費徴収・管理に関するガイドライン」

 

公会計化のさまざまなメリット

公会計化のメリットはさまざまだが、まず、教員の業務負担の軽減が挙げられる。

学校給食費を学校単位で会計処理し、学校において学校給食費の徴収・管理業務を行っている場合、滞納者が生じると教員や学校事務職員が督促業務を行うことになる。肉体的・精神的な負担は大きく、文書による督促が効果を発揮しなかった場合、電話や戸別訪問による督促も必要だ。未納の保護者への督促を行うのは学級担任が46.0%、副校長・教頭 41.0%となっている(文部科学省2016年度調査)。公会計化で学校給食費の徴収・管理業務を自治体に集約すれば、教員は当該業務を担う必要がなくなる。同ガイドラインによれば、ある自治体では公会計化により1 校当たり年間 190 時間の業務削減効果を見込んでいるという。

また、教育委員会の中には「給食費徴収は口座振替を利用しているため教員の負担はない」と、公会計化しないケースも多い。しかし、公会計化は教員の業務負担軽減だけでなく、公平性の確保という面でも重要だ。未払い給食費の回収責任は学校長に帰属しており、裁判などを通じて家庭から徴収することは難しいため、未払い分はPTA会費から充当するなどの処置がとられ、他の家庭の負担となっていた。公会計化によって学校給食費を自治体の歳入・歳出予算に組み入れ、未払い分は自治体の責任で回収する仕組みになれば、他の家庭の負担は生まれず、公平性が確保される。

公会計化は保護者の利便性の向上にもつながる。公会計化を実現し、地方公共団体が指定金融機関を指定すれば、指定された金融機関のいずれからでも学校給食費の振替を実施できるようになる。また、コンビニエンスストアやクレジットカードによる納付を可能にした自治体も存在する。

さらに、公会計化によって自治体の財務会計システムなども活用可能になる。学校給食費管理システムなどを導入し、財務会計システムと連携させれば、従来よりも効率的に納付状況等を管理することができるようになるだろう。各学校等で各々処理されていた食材等の購入に関する支払業務も、公会計化によって教育委員会事務局で一括して行うことが可能となる。これにより、当該業務に携わってきた学校事務職員の負担軽減につながる。

公会計化に向けた
システム導入・運用の課題

文部科学省は「学校給食費徴収・管理に関するガイドライン」の作成にあたり、2019年12月に全国の教育委員会に対し、公会計化の取り組み状況に関する調査を行い、1799の委員会から回答を得た。

図 学校給食費の公会計化等に関する教育委員会の実施・検討状況

出典:文部科学省「学校給食費に係る公会計化等の推進状況調査(2019年)」

 

調査によると、学校給食費を公会計化するとともに、保護者からの学校給食費の徴収・管理業務を自治体の自らの業務として行っている教育委員会は26.0%で、導入の準備・検討をしている割合を含めると57.1%にのぼった。

一方で、公会計化等の実施を予定していないと回答した教育委員会は42.9%で、その理由としては、情報管理のための業務システムの導入・改修・運用にかかる経費負担や、人員の確保の困難さ、徴収や未納等対応における徴税部門等との連携の難しさを挙げる教育委員会が多かった。

こうした回答からわかるのは、導入や運用にかかる費用が安価な、利便性の高い業務システム・サービスのニーズである。新しいシステムを自治体ごとに開発・導入するケースは非現実的であり、システム構築が不要なクラウドサービスが候補の筆頭に挙げられるだろう。

現場の教員を学校給食費関連業務から解放し、児童生徒に向き合う時間や授業改善の時間を確保できるようになれば、学校教育の質の向上が図れるはずだ。教育委員会と自治体は、一刻も早く学校給食費の公会計化とシステム導入の検討を進めるべきだ。

 

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