人気メニューは不動、消えた「生野菜サラダ」、レアになった「ソフト麺」…給食オタクが教える意外と知らない給食のおはなし

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「学校」と聞くと、授業以外では「給食」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

カレー、揚げパン、ソフト麺…ネット上でも好きなメニュー、懐かしい献立がたびたび話題になります。

今回は「給食オタク」の吉田達也さんが、「人気メニュー、消えたメニュー」から「コロナ禍の給食」まで、知られざる給食の裏側をご紹介します。

  1. はじめに
  2. 人気メニューは「不動の2皿」、カレーは進化しナンもある
  3. メニューから消えた生野菜・そば、レアになった「ソフト麺」
  4. 豪華な「カニまるごと給食」「マツタケ給食」が実現するわけ
  5. 給食の味は薄い? 栄養士は「食塩相当量」に悩んでいる
  6. コロナで「楽しい給食」は…黒板に向かってもくもくと食べるように
  7. 「もう一度給食を食べたい!」と思っているみなさんへ

はじめに

はじめまして。「給食ひろば」のライター・吉田達也と申します。

わたしは給食を愛してやまない、自他ともに認める「給食オタク」です。とにかく学校給食が面白くてたまらなくて、日々、栄養士さんと情報共有をしたり、オフ会をしたり、愚痴(ぐち)を聞いたり…。16年にわたって、給食の情報を発信し続けてきました。

給食の取材をしていると、大人たちからは「懐かしい」「もう一度食べたい」といった声をよく聞きます。みなさんもきっと給食が大好きですよね?

今の子どもたちの給食と保護者のみなさんが思い浮かべる給食を比べると、変わっていないところもありますが、大きく変わっているところがたくさんあります。

そして昨今のコロナ禍で、給食をめぐる現場は、これまで経験したことのないような大きな変化に直面しています

今回は給食オタクのわたしが、人気メニュー・消えたメニューから、地域限定の豪華な給食、コロナ禍の給食まで…「意外と知らない給食のおはなし」をお届けします。

人気メニューは「不動の2皿」、カレーは進化しナンもある

ネットメディアなどでおこなわれている給食の人気メニュー調査では、大人たちが「懐かしい思い出」として回答しているケースが多くあります。

しかし、実は現在の子どもたちの人気メニューも変わっていないことがわかりました。

学校給食の業界誌、月刊「学校給食」2021年7月号(全国学校給食協会)が、栄養教諭・学校栄養職員・給食調理員を対象におこなった「一番人気の給食メニュー」の調査結果を発表しました。

トップ3は1位「カレーライス」、2位「揚げパン」、3位「から揚げ」。この結果は、今の子どもたちの人気メニューを反映しているものです。

では、卒業した人たちの人気メニューはどうでしょうか。2020年8月に「LINEリサーチ」が「小中学校時代、好きだった給食は?」という調査結果を発表しています。

結果は10代・20代・50代が「1位揚げパン、2位カレーライス」、30代・40代が「1位カレーライス、2位揚げパン」でした。なんと、どの世代でもトップ2の顔ぶれは変わっていません。(出典:LINEリサーチ)

この2つの調査結果から、長年にわたって人気メニューは「不動の2皿」といえそうです。

しかし、「カレー」といっても、今どきの学校給食のカレーは食材のバラエティも豊富で、学校給食施設の栄養士(栄養教諭・学校栄養職員)によるたくさんのアイデアが盛り込まれています。

たとえば、夏野菜カレーは地元で夏に収穫される野菜や果をふんだんに使用。秋にはさつまいもやきのこの入ったカレー冬には根菜カレーという具合に、季節によって旬の食材を味わえるようになっています。

現在、学校給食には地場産物(じばさんぶつ、地域でとれるもの)を多く使うことが求められており、コメや野菜だけではなく、水産業が盛んな地域では地元の魚介類を使ったシーフードカレーもあります。

このようなトレンドは国の「第4次食育推進基本計画」に目標として挙げられており、さらなる地場産物の活用が期待されているのでしょう。

またキーマカレーや、ナンを使ったカレーも提供されています。学校給食は安全であること、おいしいことはもとより、教育の一環としても実施されています。食文化の理解や国際理解などの「生きた教材」としても位置づけられているのです。

キーマカレーとナンの組み合わせ(埼玉県富士見市)

キーマカレーとナンの組み合わせ(埼玉県富士見市)

神奈川県横須賀市では市内全校一斉カレーの日があります。下の写真は「こめっこカレー」。アレルギーの子も一緒にみんなで食べられるよう、小麦・乳を使わずに米粉を使っています。

「こめっこカレー」(神奈川県横須賀市)

「こめっこカレー」(神奈川県横須賀市)

揚げパンも人気がありますが、実は子どもたちよりも保護者から「子どもに揚げパンを出してあげてほしい」というリクエストが数多くあります

自身が食べるわけではないのですが、「あの味を我が子にも」という親心なのかもしれません。そして、今の子どもたちもみんな喜んで食べてくれるのです。

給食の揚げパン(愛媛)

給食の揚げパン(愛媛)

学校の栄養士も「揚げパンは子どもたちが喜ぶから」とお楽しみのひとつとして考えています。一方で「揚げパンには教育的な目的が見いだせない」として提供しない栄養士もいます。

なかには、小学校3年国語の教科書に出てくる「すがたをかえる大豆」で習った、大豆のひとつの姿として「きなこを味わってもらう」という狙いで、人気のあるきなこ揚げパンを提供している栄養士もいらっしゃるのです。

メニューから消えた生野菜・そば、レアになった「ソフト麺」

人気メニューは長年変わらないなか、まれにしか見られなくなったメニューもあります。

たとえば、「鯨の竜田揚げ」は懐かしい給食メニューになるでしょう。

1970年の給食には「鯨の甘露煮」があった(明石市学校給食展で)

1970年の給食には「鯨の甘露煮」があった(明石市学校給食展で)

商業捕鯨は1986年、国際捕鯨委員会(IWC)によって禁止されたため、給食から鯨がなくなったように思われるかもしれません。しかし、実際には調査捕鯨がおこなわれていた間にも調査の副産物として、特別な献立・懐かしい献立として提供されてきた経緯があります。

2019年に日本は国際捕鯨委員会を脱退。商業捕鯨が再開されたことにより給食で広く使われる機会が戻ってきましたが、今となっては豚肉・牛肉・鶏肉など良質な動物性たんぱく質が安定供給されているため、昔のように頻繁に提供されることはないかもしれませんね。

それでもかつて捕鯨基地としてにぎわった港がある長崎市は、11月を「くじら月間」と定め、鯨の生態や食文化をよく知ってもらうために特別授業を開いて、給食にも鯨肉メニューを提供しています。

消えたメニューといえば、生野菜が挙げられます。

昔はキャベツの千切りなども出されていましたが、1996年に発生した腸管出血性大腸菌O157を原因とする学校給食史上最大の食中毒事故がきっかけとなり、学校給食衛生管理基準が策定されて、全国の学校給食でほとんどの野菜は加熱して提供されることになったのです。

献立表には「◯◯サラダ」とあっても、それは野菜をボイルして急速冷却したうえで、ドレッシングとあえて提供されています。

ボイル野菜サラダ(愛媛)

ボイル野菜サラダ(愛媛)

そばも消えたメニューのひとつです。

現在、食物アレルギーの子どもたちが増えており、特にそばアレルギーの場合は重篤な症状を招くため、事故が起きないよう提供されなくなりました。

その影響で、ソフト麺(ソフトスパゲッティ式めん)の提供回数も少なくなってきました。アレルゲンとなるそばと同じ製麺工場で製造しているため、ラインを区別するなどの対応ができない製麺業者が学校給食から撤退するようになったのです。

ソフト麺はうどんにもスパゲッティにも併用できるすぐれもの ソフト麺はうどんにもスパゲッティにも併用できるすぐれもの

ソフト麺はうどん(上)にもスパゲッティ(下)にも併用できるすぐれもの

1976年に米飯給食が開始されて以降、たびたびコメを主食とする給食を増やすよう国から要請があったため、ソフト麺が提供される機会が少なくなってきたことも要因です。

また、パンの提供回数も減っています。戦後間もないころの給食はパンばかりでしたが、そのうちに子どもが飽きるからと1963年にソフト麺が加わりました。

それ以降、和食の推進や国産食材をより多く使うことが要請され、輸入に頼っていた小麦を使うパンやうどんよりも米飯給食の回数が多くなりました。

今では全国平均で週3.5回が米飯、残りの1.5回がパンや麺という割合になっています。それでも最近は国産小麦や米粉を使用するなど、パンやうどんの巻き返しも見られます。

豪華な「カニまるごと給食」「マツタケ給食」が実現するわけ

学校給食には「食文化の継承」という役割もあります。全国各地の郷土料理や伝統食材が多く登場しています。

なかには、普段なかなか手の届かない地域の特産食材を使った豪華な給食や「B級グルメなのかな?」と思しきメニューもあります。これらはメディアでの露出を狙った街づくりのPRという側面があります。

毎年冬になると必ずニュースになるのが、「カニまるごと給食」です。北陸では水揚げされたベニズワイガニ(雄)やセイコガニ(ズワイガニの雌)を浜ゆでし、そのまま学校給食に提供しています。

小学6年生を対象に、魚津紅ズワイガニ普及推進協議会からベニズワイガニが提供されている(富山県魚津市)

小学6年生を対象に、魚津紅ズワイガニ普及推進協議会からベニズワイガニが提供されている(富山県魚津市)

食べているのは6年生。卒業のお祝いでもあり、「地域特産のカニを食べて思い出にしてね。大きくなったらまた食べてね」という期待も込められています。その日だけは給食時間を長めにとってカニを味わいます。

このカニは保護者から預かった給食費で賄えるものではありません。水産業者や組合の協力があって特別に提供されたものですから、「うちの学校でもカニまるごと給食をやって!」というリクエストに応えるのは難しいかもしれません。

北海道ではイクラ丼カズノコを使った給食なども提供されています。これらはすべて、地元の水産事業者の協力があってこそ実現できています。

山の幸もあります。長野県では子どもたちが山に入り採ってきたマツタケを使った「マツタケ給食」が毎年おこなわれています。

年によって採れるマツタケの量も変わってきます。少ない年もありますが、子どもたちが給食でマツタケごはんの香りを満喫する笑顔は変わりません。

栗の産地として有名な長野県小布施町では毎年「栗ごはん給食」が実施されています。十数年続く秋の行事給食で、1日だけで保育園、幼稚園、小学校、中学校向けに合計70kgの栗(約1,000食分)を使います。

前日に地域のボランティアや一部生徒も参加して、約3時間かけて栗の皮むきをおこないます。近年は高齢化でボランティアの人数が減り、皮むきボランティアを公募しており、わたしも2019年に参加してきました。

3時間かけて栗の皮むき 生徒たちと一緒にいただいた「栗ごはん給食」

生徒たちと一緒にいただいた「栗ごはん給食」

小布施町には高校がありません。手間のかかった「栗ごはん給食」には、それぞれの進路に進む前に地元の名産をたっぷり味わってもらい、「卒業後も町のことを思い出してほしい」という思いが込められているのです。

また、その地域に伝わる郷土料理も学校の栄養士が研究し、必要があれば学校給食用にアレンジした料理が提供されています。

面白いのはインターネットの普及により学校給食の情報化が起きていることです。たとえば、姉妹都市・友好都市の学校給食のレシピがすぐに入手できます。さらには、その地域ごとの食材を互いに融通しあうこともおこなわれています。

給食の味は薄い? 栄養士は「食塩相当量」に悩んでいる

ここまで紹介してきた学校給食の献立にはルールがあります

学校給食法という法律で、「適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図る」とされており、小学校の3段階と中学校の計4つの発達段階に応じて、摂取すべきエネルギーや各栄養素が「学校給食摂取基準」として示されています。

栄養士は食材の各栄養素を見ながら、パズルのように組み合わせてその日の献立をつくっていきます。

今、栄養士の一番の悩みの種が食塩相当量です。小学校3・4年生の場合1食2グラム未満、中学校は2.5グラム未満と決められています。外食や間食などで濃い味に慣れていると、給食は薄味だと感じて残してしまう子どももいるかもしれません。

減塩をアピールする展示物(船橋市学校給食展)

減塩をアピールする展示物(船橋市学校給食展)

もともと、日本人は味噌や醤油、漬物など食塩を多く摂取する食生活を続けてきたので、減塩には苦労をしています。

豪華な給食のときもありますが、学校給食では普段の食生活の見本としての栄養のバランスがとれた献立のほうが多いです。

保護者のみなさまには月ごとの献立表が配布されていますので、確認してほしいと思います。ぜひ、ご家庭でつくる際の参考にしてみてください。

コロナで「楽しい給食」は…黒板に向かってもくもくと食べるように

昨今のコロナ禍で、教室における給食時間の様子も一変しました。

子どもたちにとっては楽しい時間であるはずの給食ですが、今は全員が授業と同じように黒板に向かって座り、友達と話をせずに食べるよう指導されています

学校給食の食事中はマスクを外す時間帯でもあり、文部科学省も「感染のリスクが高い活動」と整理しています。特に11歳以下の小学生はコロナワクチンの対象年齢になっていないため、その対応は慎重にならざるをえません。

給食を準備する場面で子どもが密集することになる「給食当番」をなくすため、おかずの品数を減らした「簡易給食」もおこなわれました

このときは子どもたちに与えるべき栄養量が不足してしまうため、家庭での補食など保護者に協力を求めていましたが、その見栄えがSNSで批判されることもありました。

2020年の全国一斉休業では、牛乳を含む学校給食の食材の使い道が突然なくなり大変なことになりました。

国からの支援もありましたが、一部の食品卸業者は廃業しました。学校給食から撤退する製パン業者もありました。このことは将来の「学校給食の安定供給」や「食品ロス削減」といった大きな課題として残っています。

学校が再開した後も学級閉鎖や感染状況に応じて遠足、修学旅行、学校行事の日程変更がたびたびおこなわれました。

このときに連絡がうまくいかなかった例もあります。食べるはずの給食がなかったり、用意した給食が食べられることなく廃棄されてしまったりしました。

食品ロスや給食費の徴収額にも影響を与えるため、最近の学校の栄養士は特に緊張感を持って、コロナ関連のニュースにアンテナを張り巡らせています。

一方で、感染状況が収まってくると、国の経済対策によって、普段はまったく手の届かない高価な食材が学校給食に無償で提供されました

経済対策として国産クルマエビが無償提供された給食(東京都中野区)

経済対策として国産クルマエビが無償提供された給食(東京都中野区)

接待やインバウンドなどの需要がなくなった飲食店が営業できず、在庫として積み上がった和牛や魚介類を国が購入し、学校給食に提供してくれる恩恵があったのです。

子どもたちの味覚は鋭いもので、あの味を覚えてしまった後はご家庭でも食べたいと言っているかもしれません。栄養士も「やっぱり、いいものは違う…」と思っているのはここだけの話です。

「もう一度給食を食べたい!」と思っているみなさんへ

最後に「学校給食を食べてみたいけど、そういう機会はもうないだろう」と思っていらっしゃる方、あきらめないでください!

自治体や学校で、保護者だけでなく地域住民に向けた給食試食会を実施しているケースが多くあります。

特に1月は「全国学校給食週間」があります。学校給食週間においては、学校給食の意義や役割について、児童生徒や教職員、保護者や地域住民の理解を深め関心を高めるため、全国でさまざまな行事が開催されています。

コロナによって一時的に休止している自治体もありますが、ぜひ「学校給食 試食会」で検索してみてください

給食を少しでも身近に感じてもらえれば、給食オタクとして喜ばしいかぎりです。

編集:はてな編集部

吉田 達也
この記事を執筆した執筆者
吉田 達也

テラコヤプラス by Ameba 執筆者

通りすがりの給食オタク。学校給食・食育ジャーナリスト、食品衛生責任者・JHTC/HACCPコーディネーター。食生活ジャーナリストの会、日本健康教育学会に所属。記事掲載実績、講師実績多数。「給食ひろば」とは、給食・食育に関する情報が集まる、全国の栄養士のためのコミュニティサイトです。