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食育指導に「黙食」を活用 生涯にわたり健康な生活を送るために

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 今年4月に文科省が「学校給食摂取基準」を改定し、減塩等を意識した献立が学校給食で求められている。またコロナ禍により、児童生徒の食生活においても変化を余儀なくされている。減塩を視野に入れた学校給食の現状やコロナ禍での食育について、饗場直美・神奈川工科大学健康医療科学部管理栄養学科教授に聞いた。

饗場 直美 神奈川工科大学健康医療科学部管理栄養学科教授

低学年の食塩摂取量、給食1食あたり1・5g未満に
 新しく改定された「学校給食摂取基準」は、厚労省より「日本人の食事摂取基準(2020年版)」が告示されたことを受け、改定されたものです。
 今回私自身も驚いているのは、低学年(6~7歳)の食塩摂取量が学校給食1食あたり1・5g未満になったことです。令和元年国民健康栄養調査結果では、日本人成人の平均的摂取量1日あたり10・1g、7~14歳の8・6gと比べても少ないです。平成30年の改定に先立ち、平成26年度に食事摂取量調査が行われましたが、家庭では、子どもが大人と同じ味付けのため、大人と同様に食塩のとりすぎが問題視されています。
 日本人の食塩摂取量減少に向けて厚労省の「健康日本21(第2次)」という健康政策が動いています。健康寿命の延伸を目標とし、血圧を下げて脳血管疾患のリスクを低減することを目指すものです。厚労省はこの政策に従って減塩を実現するために5年ごとに「食事摂取基準」を取りまとめ、学校給食の基準もこれに準拠しています。
 学校給食の食塩相当量が小学校低学年で1・5g、高学年で2・0gになったため、栄養教諭は2・0gまでに落とし込める献立を考える必要があります。献立作成では、従来の汁物の塩分の減少と、主菜と副菜の減塩を考え、おいしい献立である必要があります。

野菜に含まれるカリウムでナトリウムを体外へ排出
 血圧を下げるには食塩量を減らすのが一番良いのですが、本来食事は楽しく、おいしいと思って食べることが大切です。減塩は重要ですが、減塩により料理がおいしくなくなり摂食量減少による低栄養になると健康上困ることが出てきます。そのため、減塩だけでなくナトリウムを排出してくれるカリウムに注目し、厚労省では「野菜を1日350g食べる」ことを推奨しています。成人の野菜量は288gにとどまっています。あと70gの野菜を増やす取り組みが続けられています。
 学校給食でもしっかり野菜を食べてもらい、子どもたちが野菜に慣れることが大事です。文科省が平成22年度に行った調査では、子どもの嫌いな食品として野菜が多くあげられています。嫌いな食品第一位はゴーヤ、嫌いな理由は苦いからです。野菜に含まれる毒性成分のアルカロイド物質は苦みを持ちますが、人間は生得的に苦みを毒と認識するようにできています。ゴーヤの苦みは毒ではないと判断できるように繰り返し食べて慣れることが大事です。嫌いでもあえて食事に出し続け子どもに慣れさせることが食育です。

「黙食」の今が味覚教育のチャンス
 コロナ禍の学校給食では、子どもたちが前を向いて食べる「黙食」がうたわれています。学校給食での「共食」の効果は、楽しくおいしく食べるということの他に子どもが「友達を見て学ぶ」や「先生を見て学ぶ」という2つがあり、モデリングとしての意味は大きいですが、「黙食」にも大切な意味があります。
 「共食」では子どもがおしゃべりを始めると食べることに集中できなくなるということがあります。「黙食」で前を向いて食べることを活用して、おいしい給食をおいしく感じながら食べる体験とする「味覚教育」は今こそすべきだと思います。
 味覚教育とは食べ物の食べ方の基本で、具体的には甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの基本味をよく噛んで味わいわかるという教育です。味覚だけではなく五感を使って最終的においしいと統合させることが本当の意味で味わうということですが、普段なかなかできないことです。「黙食」で食にしっかり向き合える今、取り組めるチャンスであり、栄養教諭の出番だと思います。
 また、正しく噛むことを教えると、子どもはなんでも噛める口づくりができます。よく噛む習慣が身につくと生涯何でも食べられる口を保てます。噛むのが早い子と遅い子がいますが、きちんとしたリズムでよく噛むのがよいと教えてあげるとよいです。きちんとしたリズムでよく噛むとそしゃく筋が発達するからです。小学生の時期に、意図的に大きめの野菜を食べさせて味を残すというような教育もぜひ行ってほしいと思います。
 食育では、自分が何を食べたか認識させることが非常に重要です。「薄味でこの食べ物おいしいね」と子どもに認識させるために素材の味を1つずつ確認する作業が学校給食で必要なのです。子どもに食についての知識を理解させ、給食で体験させて、生涯にわたり健康な食生活を送るための教育につなげられるとよいと思います。栄養教諭は工夫しながらおいしい食事を作っています。

 あいば・なおみ 徳島大学大学院栄養学研究科修士課程および医学研究科博士課程修了。管理栄養士、医学博士。(独)国立健康・栄養研究所で栄養教育プログラムリーダーを務めた。研究分野は栄養教育、食育、食行動科学。
 生涯を通じた食育、栄養と免疫、高齢者の食支援などを主な研究テーマとして教壇に立つ。

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