八王子発、情熱の輪 「特産」パッションフルーツ、逆境超え

2020年9月11日 07時07分

昨年の台風や猛暑を乗り越えたパッションフルーツを手にする関純一さん=いずれも八王子市で

 八王子市が特産として売り出しを図る南国生まれの果実、パッションフルーツ。7月の長雨、8月の猛暑など相次ぐ天候不順で、病気にかかったり、実が日焼けしたりする被害を受けた。それでも生産農家は逆境に負けじと作業に汗を流す。熱意は市内に広がり、小学校の給食で出す準備も進む。情熱(パッション)の輪が八王子に広がっている。

パッションフルーツ=JA八王子提供、ジャム、ワインも

 南米原産で、赤紫色の果実を切り、種ごと実をスプーンですくって食べるパッションフルーツ。同市で栽培が本格化したのは二〇一三年から。若手農業後継者十三人がJA八王子の部会の一つとして、「八王子パッションフルーツ生産組合」を立ち上げた。市内各地の夏祭りで流れる「太陽おどり −新八王子音頭−」の歌詞にある「太陽の街・八王子」にも着想を得て、南国の果実に「八王子特産」の夢を託した。しかし…。
 「南国生まれで暑さに強いと思われているけど、これだけ暑いとねえ」。栽培農家の一人、関純一さん(46)は、今夏の暑さにため息をつく。
 五アールの農地に百七十本のパッションフルーツを栽培。先月上旬から収穫が始まったが、実の一部が茶色く変わってしまっている。八月は連日、最高気温が三五度以上の猛暑日を記録。日差しが強すぎて実が焼けてしまったのだ。水分が足りないため、表面にしわが入った果実も多い。
 パッションフルーツは熱帯生まれ。JA八王子によると、暑さで枯れることはないが、気温が高すぎる日が続くと、実に栄養が回らなくなる。南国のフルーツとはいえ、今年の八王子の暑さは生育にマイナスだったようだ。

南国生まれだが猛暑に弱い。手前の果実は日焼けし、右下にしわが入った

 七月の長雨による影響も見過ごせない。十三軒の農家の多くで、花芽が腐ったり、実にかびが生えたりする病気にかかる被害も出たという。生産組合の石川耕平組合長(40)は「今年はこれまでにないくらい、形や色が良くない実が多い」と険しい表情だ。
 ランクの良い実は高級食材として販売できるが、形や色が悪い実は加工品の材料となる。今年はジュースやワイン、シロップなどの加工品販売も増やすことになりそう。「勉強の年。どんな時でも上質の実を出せるようにならなくちゃ、『特産』とは言えない」と石川さん。十二人の仲間たちと会員制交流サイト(SNS)などで情報交換を続け、今後の対策を探る。

パッションフルーツワイン

パッションフルーツジャム

◆学校給食に採用

 若手農家の「新たな特産」にかける情熱は市内に伝わりつつある。昨年初めて、市内六十の小学校で給食に採用され、ヨーグルトのソースとして提供された。給食への採用に尽力した市教委保健給食課の安斉祥江さんは「農家の皆さん、八王子を盛り上げようとしてくれている。子どもたちから家庭においしさが伝われば応援になるのでは」と期待を込める。
 実際に、昨年は、給食を食べた子どもの感想が、親に伝わったようだ。「パッションフルーツはどこで買えるの?」「ソースの作り方を教えて」などと学校に問い合わせがあったという。今年はチキンソテーのソースを提供する予定だ。安斉さんも、子どもたちが南国生まれの果実をおいしく食べる姿を楽しみにしている。
 「新たな特産品を作ろう」との情熱で、今年の天候不順の逆境を乗り越えようと踏ん張る八王子のパッションフルーツ。実は、昨年の台風19号も農家にとって、大きな試練だった。関さんの農地は高さ約二メートルまで泥水につかった。幸いパッションフルーツの多くは泥を落として販売できたが、ズッキーニやニンジン、ゴーヤーを育てていた畑はいまだに栽培を再開させるに至っていない。
 それでも、「若手農家の仲間がいるから頑張れる。力を合わせて、八王子に定着させたい」。パッションフルーツを巡る熱い思いは、夏が過ぎても終わらない。
 文と写真・布施谷航
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