「教室で密集するなと言われても」学校再開へ戸惑う現場

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矢島大輔 編集委員・氏岡真弓 三上元
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 全国一斉の臨時休校から、自治体が学校ごとに再開か休校かを判断へ――。政府が24日に出したガイドライン(指針)は、学校における新型コロナウイルス対策の方針を大きく転換させる内容だ。一方、学校のあらゆる場面で感染対策を促す指針に、学校現場からは困惑の声も上がる。

 文部科学省が24日に示したガイドラインの要点は、19日の専門家会議で示された集団感染が生じる3条件に配慮した内容だ。

 「手の届く距離に多くの人がいる」「換気の悪い密閉空間」「近距離での会話や発声」。教室や体育館で生じやすい3条件が重なる場面を徹底的に作らないようにする。

 ガイドラインでは、教室内の換気やマスクの着用のほか、給食時に机を向かい合わせず会話も控える▽部活動で使う部室を一斉に利用したり、長時間居座ったりしない▽放課後児童クラブでの密集を防ぐための空き教室の開放、などの対応を求めた。供給不足になっているマスクが手に入らない場合は、家庭や学校でハンカチなどで手作りするようにも呼びかけた。

 文科省は、学校現場で活用しやすいように注意点をまとめた10項目のチェックリストを用意。自宅や保健室での毎朝の検温や、休校に伴う学習の遅れへの対応なども盛り込んだ。

 また、再開後に感染者が出た場合、感染者を出席停止とした上で、再休校を検討する際のガイドラインも示した。症状の有無▽普段の活動の様子▽感染経路▽地域の感染拡大状況などを総合的に考慮。休校か学級閉鎖にするか、感染者や濃厚接触者の出席停止にとどめるかを自治体が判断する。臨時休校の期間は2週間を目安とし、家庭学習を課したり、登校日を設定して分散登校させたりするよう求めた。

 一方、欧米で見られるような「オーバーシュート(爆発的な患者の急増)」が国内で発生した場合、感染が拡大している地域に対し、政府から改めて一斉休校を要請する可能性も示唆された。(矢島大輔)

「いま知りたい情報はなかった」

 「あまりにも現場を知らなさすぎる」。東京都内の公立中学校長は指針などを見て、ため息を漏らした。

 一つの教室で約40人が国語の音読や合唱をする場面はどうするのか。マスクをして窓を開ければ、3条件が重ならないからいいのか。体育館での体育実技でマスクをするのか。「一切、話すなとも言えない。部活も難しいでしょう」

 北海道のある教育長も「心配半分」と言う。子どもたちが密集しないための大きな教室の確保が課題だといい、「廊下で(授業を)やるわけにもいかないし、クラスを分けても教員は1人しかいない。考えないといけないことが山ほどある」。道内の私立高校長は「密集するなと言われても、教室の中はどうしようもない。まだ寒いので、窓を開けっ放しにはできず、1時間ごとに窓を開けるしかない」と話す。

 東京都世田谷区保坂展人区長は、指針の3条件が重なりうる場として、対話を図る授業や給食の時間、合唱などがあると指摘した。「条件の重なりを回避するには、これまでの学校生活を大きく変えなければならない。学校現場や自治体も難しい判断が求められるが、特に日常で制限を強いられるのは子どもたち。その意味を子どもたちにしっかりと伝える必要がある」と話した。

 東京都内の公立小学校長は「制限を受ける活動はあるだろう」とみる。休校前は、話し合いや発表といった活動を多く取り入れた授業をしていたが、「手の届く距離に多くの人がいる」「近距離での会話や発声がある」の条件が重なりあい、学校再開後は難しいと考える。「意見を個々人で書き出してそれを共有するなど、学びの形を工夫していく必要がある」

 東京都町田市教委の担当者も「教育や行事の中身を変えていく必要があるかもしれない」と受け止める。例えば部活動。部によっては密閉空間で活動したり、接触を含む練習をしたりする場合がある。市担当者は「この部活動はダメで、あの部活動は大丈夫だとは定められない。不安に思う家庭もあるだろうから、耳を傾けて活動内容を考えたい」と話す。

 浜松市の浜松開誠館中学・高校の高橋千広校長は「(指針は)具体的な対応を学校に委ねる書きぶりで、責任を感じる。長期戦になる恐れがあるなか、正確な情報を集めて判断をしなければ」と話す。

 感染に対する懸念の強さも、家庭によって異なる。そんななか、「学校の方向性を示すだけでなく、保護者の同意や納得を丁寧に得ていくことも課題」だと考えている。

 ただ、再開には課題も多い…

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