平成逆転史
♪ベイマイベイベー 今日も参ろうか ベイマイベイベー 君の待つ場所へ
恋人へのラブソングではない。関西学院大学(兵庫県西宮市)出身の人気バンド「キュウソネコカミ」が2018年に発表した新曲。その名も「米米米米(べいまいべいべー)」。軽快な音楽に乗せて連呼するのは、コメへの愛、愛、愛だ。
農機具大手のクボタ(大阪市)が昨秋、同バンドや大手出版社と連携して始めた「LOVE米プロジェクト」。その一環として制作した特別動画には、コメ137粒が登場する。一粒一粒に特殊な加工技術で人気漫画の名シーンを描き、歌やエピソードとともにコメへの情熱を語り尽くす。
同社担当者は「農業を技術で応援したい。若い世代にコメをアピールしたかった」と力説する。
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熱烈なPRが必要なほど、コメ離れは進んでいる。農林水産省によると、1人当たりの年間消費量は1962年度の118キログラムをピークに減少。2016年度には半分以下の54キログラムに落ち込んだ。総務省家計調査では11年に一般家庭(2人以上世帯)の支出額でパンがコメを初めて上回り、14年以降は完全に逆転した。
ただ、家計調査の対象は炊いたご飯ではなく、生米。コンビニの弁当や加工品を自宅で食べる中食、外食は含まれない。農林水産省の担当者は「一概に主食が変わったとは言い切れない」と強調する。
とはいえ、パンに押されているのは事実。業界は近年、新しいブランド米の開発で巻き返しを図る。農林水産省の「産地品種銘柄」は年々増加。18年には過去10年で最多となる52種が登録された。現在の登録数は795で、10年前の約1・5倍に伸びている。
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約200軒。神戸市の女性会社員(35)が1年間に訪れるパン店の数だ。毎週末のように県内外を飛び回る。時には海を越えフランスやドイツへ。観光名所には見向きもしない。「味や見た目だけでなく、店のデザインや雰囲気、包装、接客などパンにまつわる全てを見るのが至福」
大学時代に働いたパン店で、その世界に魅了された。「無限に形を変える生地はまるで生き物。可愛くて奥深い」。就職も自然とパン業界へ。3食ともパンの日も多い。
実家では幼少期から和食中心だったという。「潜在的にパンに憧れを持ち続けていたのかもしれません」
2018年には、日本パン学会(神戸市)にも入会した。同会は14年、大学教授や業界関係者らが設立。パン文化の研究を続ける。
安泰に見えるパン業界だが、近年は学校給食への危機感を強める。農水省が自治体へ補助金を出して米飯給食を推奨したことで、パン給食の回数が各地で減少。全日本パン協同組合連合会によると、12年に1500社だった会員は17年に1130社まで落ち込んだ。連合会は「パンはすでに日本文化の一つ。パン文化を守りたい」と主張する。
食卓の主役をめぐる争いは次代も続きそうだ。(末永陽子)
■食パン消費神戸全国1位
神戸市はパンの支出額が全国トップクラスを誇る。総務省の家計調査(2人以上の世帯)では、15~17年の平均は京都に次いで2位、食パンに限ると全国1位だった。ここ数年は高級食パンブームも起こり、神戸市内に2店ある「食ぱんの店 春夏秋冬」では1斤330円、計1200斤の完売が続く。
一方、同じ調査のコメでは、神戸市の15~17年の消費量は全国一少なかった。
2019/1/3