東京都立川市で1000人以上が食中毒症状を訴えた学校給食問題。ノロウイルスの感染原因となった刻みのりを製造したのは大阪の食品会社だった。素手で作業するなどずさんな商品管理が、社会的批判を浴びている。
[東海屋社長]田中健二氏
1962年生まれ。85年、兵庫県漁業協同組合連合会(明石市)に入社。主に経理業務を担当する。2014年1月から東海屋に出向し監査役に就任。16年11月から現職。兵庫県漁業協同組合連合会は東海屋の大株主。
ノロウイルス混入の概要
今年2月、東京都立川市の市立小学校7校の児童や職員が食中毒症状を訴えた。同月24日、東京都は患者からノロウイルスが検出されたと発表。続いて28日、給食で使われた東海屋(大阪市)の刻みのりからノロウイルスが検出されたと発表した。東海屋は商品の自主回収を開始。3月4日、大阪市の調べで外部の加工委託先が感染元と判明した。
<b>大阪市にある東海屋はノロウイルスが検出された「キザミのり2ミリ青」だけでなく、いそ小判海苔本舗で製造したもみのり製品など約2300パックの自主回収を始めた</b>
大阪市にある東海屋はノロウイルスが検出された「キザミのり2ミリ青」だけでなく、いそ小判海苔本舗で製造したもみのり製品など約2300パックの自主回収を始めた

 今年2月、当社が製造・販売した刻みのりからノロウイルスが検出されました。東京都立川市の市立小学校の学校給食で同月16日に使われ、この製品が原因で1000人以上もの児童、教職員の方々に嘔吐や下痢などの症状を伴う食中毒が発生する事態となりました。心より深くおわび申し上げます。

 立川市や給食センターを運営するグリーンハウス(東京都新宿区)など関係者の方々には多大なるご迷惑をおかけしました(編集部注:この問題で立川市は小学校13校への給食を今年3月末まで停止。児童には弁当を持参させる)。本当に申し訳ございませんでした。

保健所からの連絡に驚愕

 このニュースに接した世の中の多くの方々は「まさか、焼きのりが原因でノロウイルスに感染するとは」と驚かれたと思います。正直申し上げて、私も最初は同じ感覚でした。高温で焼き、乾燥した状態の食品ですから、ノロウイルスが混入するとは全く想像していなかったのです。

 当社は食品卸業者を通じて業務向けに商品を出荷しています。そのため、最終的にどこでどなたが召し上がっていただいているのかまでは把握しきれていません。立川市の学校給食で提供されていたことも指摘を受けて分かったことでした。ですから、報道を通じて問題になった当初は、当社が原因だとは夢にも思いませんでした。

 そうした中、2月27日に大阪市保健所から連絡がありました。当社の製品からノロウイルスが検出された事実を伝えられ、本当に驚愕しました。

<b>大阪市にある東海屋</b>
大阪市にある東海屋

 その後、調査を受けました。問題となった商品「キザミのり2ミリ青」は大阪市内にある加工業者、いそ小判海苔本舗に製造委託していました。原料となる焼きのりはいったん、当社に入荷しますが、封を開けずにダンボール箱ごといそ小判に渡します。そして先方で加工して商品パッケージにします。

 そうした事情から保健所の調査では、当社の作業所からは検体など採取されず、いそ小判での調査で検体が採取されました(編集部注:3月4日、大阪市はいそ小判で採取した検体からノロウイルスが検出され、東京都が立川市の給食から検出したノロウイルスと遺伝子型が一致したと発表。いそ小判を無期限の営業禁止処分にした)

 いそ小判の片木健雄社長は「本来、手袋を着用すべきだったが、作業効率を上げるため素手で焼きのりに触れ、作業していた」と説明しました。作業した片木社長自身がノロウイルスに感染していたかどうかは不明ですが、症状らしきものがあったようです。そのときも素手で作業をしたため、製品がノロウイルスに汚染された可能性が高いとみられています。

 当社が外部に加工を委託しているのはいそ小判だけです。当社が所有していない2mmにのりを刻む設備を同社が持っているからでした。私が社長に就任する以前、20年来の取引だったため、所与のものとみなし、現場の作業状況を定期的に点検するなどの管理を怠ってきました。

 いそ小判の片木社長は問題の発覚後、テレビの報道番組で、素手でのりを刻む作業を自らわざわざ再現しました。「たまたまノロウイルスが出たから問題になった」など、開き直っていると思われかねないコメントもいくつか発してしまいました。あまりにずさんな作業と粗雑なコメントで多くの視聴者にショックを与えたことは否めません。

 こうしたことは当社の品質管理体制の不備によるものです。心から反省しています。

3月の売上高は8割減

 原料の乾燥のりは、すべて国産で漁業組合の共同販売を通じて購入します。兵庫県漁業協同組合連合会から購入する兵庫産が主力で、問題の刻みのりも兵庫産を使っています。冬から春の生産シーズンに1年分をまとめて購入して、倉庫業者に預け冷凍庫で保管します。そして加工する分だけを、都度、当社に配送してもらう仕組みです。

 干しのりをより乾燥させる「火入れ」、その後、さらに焼きのりにする「焼き加工」の2つの作業を倉庫業者に依頼しています。火入れは温度を最高で約90度まで上げながら4時間程度、熱を加え水分を少なくする作業です。焼き加工は約250度で7秒程度、焼く工程です。出来上がったのりは袋で密封され、段ボール箱に詰められ当社に届きます。

 これを刻んだり、味付けをしたりして加工品を製造し、最終的にパッケージに入れて出荷するのです。

 火入れ、焼き加工があることから原料の段階でノロウイルスが混入したことは考えがたい。仮にノロウイルスがあったとしても加熱で死滅するはずですから。やはり加工過程の衛生管理が問題です。

 再発防止のため、衛生管理を徹底して従業員がノロウイルスに感染していないか、設備にウイルスが付着していないかなどきちんと検査していこうと考えています。当社の作業所は衛生管理上、問題ないことを証明して信用を取り戻さなければなりません。

 ウイルスが検出された商品を含め、昨年12月からいそ小判に製造委託したすべての製品を自主回収しています。保健所から指摘を受けて以降、該当製品は製造、出荷していません。今後もいそ小判と取引を再開する予定はありません。回収対象は約2300パックで100万円程度の売上高に該当します。

 当然、売上高への影響はそれだけでは済みません。信用が失墜し「東海屋」と名前が入っている製品を消費者が避けています。そのため、卸業者も取引を見直し、買い取ってはもらえません。今年3月の月間売上高は例年の20%にまで落ち込む可能性があります。それが4月、5月と続けば経営は成り立たず、会社の死活問題にも発展するでしょう。

 ただ、今はまず、食中毒被害に遭われた方におわびをしたい一心です。立川市だけではありません。同じ刻みのりを学校給食で使った東京都小平市で100人、和歌山県御坊市で800人もの方が食中毒を起こしています。

 できるだけ早期に謝罪に伺いたいと思っています。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。