広がる学校給食の「減塩」 薄味で将来の生活習慣病予防

地元の牛乳を活用した「切り干し大根のミルク煮」など乳和食のメニューを楽しむ児童ら=岩手県一戸町立鳥越小学校
地元の牛乳を活用した「切り干し大根のミルク煮」など乳和食のメニューを楽しむ児童ら=岩手県一戸町立鳥越小学校

学校給食で「減塩」に取り組む自治体が増えている。子供のころから薄味の食事に慣れることで、将来の生活習慣病予防につなげるのが狙いだ。ただ、塩分は味の決め手。薄過ぎると食べ残しが増えてしまうため、おいしさとの両立が課題となっている。(平沢裕子)

教員や保護者も啓発

「味の濃い食事は食べ過ぎにつながる。子供たちはもちろん、教員や保護者らにも減塩の大切さを知ってもらいたい」。滋賀県草津市学校給食センターの栄養教諭、糴(せり)川美紀さんは減塩給食の必要性についてこう説明する。

同市では平成27年度から全市立小学校で塩分を控えめにした「減塩給食」を提供している。同年4月に国の食事摂取基準で食塩相当量(ナトリウム)の摂取目標量が引き下げられたことや、肥満の子供が増えていることなどが導入のきっかけだ。

学校給食の塩分摂取量は、文部科学省が学年ごとに基準を定めており、3〜4年生は1食当たり2・5グラム未満。同センターはこれよりさらに0・1グラム減の2・4グラム未満を目安とした。

目標達成のため、料理のダシを利かせる▽ニンニクやショウガなど香味野菜を活用する▽汁物は5種類以上の具材を入れてうま味を出す-など減塩してもおいしく食べられるよう工夫している。

ただ、塩分を減らしすぎて料理の味がぼやけてしまうと、子供たちが残してしまう。そうなると必要な栄養がとれなくなる。同センターでは、食べ残しが多かったメニューについてはその理由を分析し、試行錯誤を続けている。

糴川さんは「給食だけでなく、家庭などでも減塩を実施するよう保護者にも呼びかけていく」と話す。

和食に牛乳活用

岩手県一戸町では昨年10月から和食に牛乳を合わせた「乳和食」で減塩に取り組む。牛乳のうま味とコクを利用して薄味に仕上げた和食のメニューを月に1回程度出している。

同県は全国でも塩分の摂取量の多い自治体の一つ。住民の減塩対策は喫緊の課題となっている。一戸町食育センターの小野寺俊勝所長は「大人になってから食習慣を変えるのは難しいが、子供のときから薄味に慣れておけば、大人になっても続けられる。牛乳は町の特産品でもあり、活用は産業振興にもつながる」と意気込む。

これまでに提供した乳和食メニューは「切り干し大根のミルク煮」「白い肉じゃが」「ミルクきんぴら」など。児童・生徒からも「食べやすい」と好評という。

パンの塩分10%減

長野県も27年度から公立小中学校などに提供する給食用のパンの塩分を10%削減した「減塩パン」に切り替えた。パン1食分に1〜2グラムの塩分が含まれており、パン給食の日は塩分が多くなりがち。同県の健康づくりの県民運動「信州ACE(エース)プロジェクト」で減塩が重点目標となっていたことなどから減塩パンの開発に取り組んだ。

パンに含まれる塩は、粘りを出したり膨らませたりするのに不可欠で、塩を減らしてしまうとパサパサしてしまう。何度も試作を重ね、従来品よりおいしいパンが出来上がったという。

同県保健厚生課学校給食係の中山雅代係長は「主食であるパンを減塩できたことで副菜の味付けに幅を持たせられるようになり、提供できるメニューが増えた」と話している。

給食の日も基準上回る

塩分の取り過ぎは高血圧の原因となり、脳梗塞や心筋梗塞など心血管疾患になるリスクを高める。厚生労働省の研究班が平成26年、全国12県の小学3年、5年生と中学2年生の計910人について調べたところ、1日の食塩摂取量は、給食のある日もない日も8〜9割が国の摂取基準を上回っていた。

調査を担当した東邦大医学部社会医学講座の朝倉敬子准教授は「食塩摂取量を減らすには、給食だけでなく、家庭での食事も含めた減塩対策が不可欠。ただ、個人の努力には限界があり、市販の総菜や加工食品に含まれる塩分を少しずつ減らすなど社会全体で取り組むことが大事」としている。

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