川崎市長インタビュー 子育て施策に手応え 防災・安全対策加速に意欲

 川崎市の福田紀彦市長が産経新聞のインタビューに応じ、1期目の任期(4年)が4分の3を経過しての総括や、今年、残りの任期で重点的に取り組みたい点などを語った。本格化する小児医療費助成や中学校給食の実施のほか、高齢化や防災・安全対策を加速させることにも意欲を示した。(聞き手 那須慎一)

                   ◇

 --平成25年11月に市長に就任してから3年が経過したが、これまでの総括と課題認識は

 「私が当選したとき、市の人口は約144万人で、今は149万人、さらに今年(平成29年)には150万人を超える見込みで、予測を上回るスピードで人口が増えている。特に、20~30代の若い世代が流入している。就任当初、他の自治体と比べ、子育て施策の取り組みがやや少なかったため、特に、子育て施策を全般にわたり強力に進めてきた3年間だった。私の重点公約である待機児童解消、小児医療費助成、中学校給食の開始など公約の大きな柱自体が子育て施策につながるものだったが、一定の成果を出せたと思っている。ほかの公約についても、『税収と給与の連動』以外はおおむね順調に取り組めている」

 --新たに「市総合計画」と「市行財政改革プログラム」を策定した。狙いや今後どのように展開するか

 「『総合計画』は30年先を見通したうえで、10年間の計画という形になっている。当市は、平均年齢も政令市のなかで最も低く、人口も伸びがあるなど、全国でもまれにみる成長をしている。ただ、10年先をみると、人口も減少し、高齢化も進む。そのなかで、どう行政の最適化をしていくか。必要なところに、必要なサービスを実施するためには、色々な調整が必要になる。そのなかで、総合計画を示せたことはとても大きなことだ」

 --小児医療費の助成対象を小3まで拡大し、さらに今年4月以降、小6まで拡充するが、評価と、今後どう進めていくか

 「『全額助成すべき』という声もあったが、医療の供給体制の問題や過剰受診につながらないようにするためにも一定の負担をお願いする。限りある財源のなかで、こういった医療や福祉の施策を進める際に必要な考え方だと思っている。子育てに関する安心感がより増したのではないか」

 --課題はあるか

 「『一部負担金』という表現が新たな負担になると勘違いされている方がいらっしゃるが、実際は軽減される、ということ。もっとアピールをしていく必要がある」

 --昨年は、ヘイトスピーチでデモの起点となる公園の使用を不許可にする判断をした。人権教育なども含め、どう考えているか

 「短期的に公園の使用許可がどうか、ということではなく、これからも外国籍の方は増えるし、2020年東京五輪・パラリンピックの開催に向け、多くの海外の方が来られるなかで、人種や性別の差別、偏見などがあるという国は、開催国に値しない。そのための教育、啓発はこれからも中長期的に大切になる。『多文化・共生』で発展してきた都市としては、その価値を大事にしないといけない。これまでも学校教育のなかで川崎は人権尊重教育を進めており、引き続きしっかりやっていく」

 --市内経済の動向分析や課題は

 「日銀短観などのデータが良いときもあるが、肌感覚として地元の中小企業は、良い感じはしない。特に零細企業をみると、楽観視どころか、ずっと厳しい状況が続いている。もっとも、新しい価値を見いだすための仕掛けづくりは進めている。例えば、農業と情報通信技術(ICT)を組み合わせて新しいニーズを掘り起こそうとしたり、福祉とICT、人工知能(AI)技術を活用したりするなど、さまざまな分野を異分野融合することで、新しく生まれるビジネスチャンスの仕掛けづくりを進めている。また、1社だけではなく、例えば環境技術にしても、市内の企業や大学、研究機関などが互いに事業連携を行い、知的財産を共有しながら産業の発展を目指す『クラスター』を作っていく。集積によって生まれる価値、パッケージで強くなるビジネスモデルに、市としてもしっかり関わっていきたい。そういう施策はどんどんやっていきたい」

 「もう一つは、思った以上にベンチャーの新規開業数が少なく、川崎の持つポテンシャルにしては『おやっ』という思いがある。創業するにふさわしい街となるための施策に力を入れていきたい。行政だけでなく、商工会議所や産業振興財団など経済団体と3本の矢、4本の矢となって進めていきたい」

 --今年は市長選があるが

 「まずは、任期があと1年近くあるので、しっかり市民に約束したことを果たすために全力を尽くす。目指す都市像は『成長と成熟の調和』を掲げているが、まだ成長戦略には取り組まなければならないし、さらに市でも高齢化していくなかで便利だけではない、心の豊かさや、便利よりも安心安全、といった価値がこれから重要になっていく。そういった課題はこれから、もっとやっていかないといけないという認識だ」

 --今後の課題と抱負は

 「防災や安全に対する価値形成をもっとやっていかなければならない。切迫感を持っている。人の意識ほど大事なものはない。いくらハードの整備や備蓄品を増やしても、市民一人一人が意識を持っていただかなければ、何にもならない。何をすべきかというのは行政にとっては難しいことだが、市民の意識を高めていただくために時間とお金をかけないと、いまあるものをうまく活用できないなと。そこは今年も進めていきたい」

                  ◇

【プロフィル】福田紀彦

 ふくだ・のりひこ 昭和47年4月20日生まれ。川崎市出身。米ファーマン大政治学専攻卒業後、衆院議員(当時)の松沢成文氏の秘書などを務める。平成15年、県議に最年少で初当選。議会外でも、全国の知事や議員らの政策や実績を競う「マニフェスト大賞」の実行委員長として活躍。早稲田大マニフェスト研究所客員研究員を経て、25年10月の市長選で初当選し、現在1期目。44歳。

会員限定記事会員サービス詳細