食品の安全考

ヒジキの鉄分は鉄釜とステンレス釜でなんと10倍の差!? 給食は献立見直し、業界は猛反発するが…

【食品の安全考】ヒジキの鉄分は鉄釜とステンレス釜でなんと10倍の差!? 給食は献立見直し、業界は猛反発するが…
【食品の安全考】ヒジキの鉄分は鉄釜とステンレス釜でなんと10倍の差!? 給食は献立見直し、業界は猛反発するが…
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鉄分が多い食品として親しまれているヒジキ。加工の過程でステンレス製釜が使われた干しヒジキの鉄分含有量が、鉄釜の場合と比較して9分の1と少ないことが、昨年12月に公表された文部科学省の「日本食品標準成分表(食品成分表)」で判明した。ヒジキの業界団体は「鉄分含有量の違いは、釜の材質の違いによるものではない」と反発するが、学校では給食の献立の見直しを検討するなど波紋が広がっている。

製法で異なる値

食品成分表は、食品に含まれる栄養成分の基礎的データ。昭和25年に初めて取りまとめられ、学校給食や料理本などで栄養計算に役立てられており、今回は15年ぶりの大幅改訂だった。

昭和57年から掲載されている干しヒジキの鉄分含有量は100グラム当たり55ミリグラムで、海藻類では青ノリ(素干し)に次いで多かった。

干しヒジキは、原料の海藻を蒸し煮にして渋みを取り、乾燥させて作る。煮る際に使う釜はかつては鉄製だったが、現在は手入れが簡単で衛生的なステンレス製が主流だ。改訂に向け、文科省は鉄釜とステンレス釜で製造した国産干しヒジキの栄養成分をそれぞれ分析。その結果、ステンレス釜は同6・2ミリグラムで、鉄釜(同58・2ミリグラム)の9分の1の値となった=表参照

同省資源室の河合亮子室長は「干しヒジキの鉄分の多さは、鉄釜で長時間加工することが関係しているようだ。以前から専門家が指摘していたが、これほど影響しているとは思わなかった」と驚きを隠さない。

今回の改訂では、栄養計算の助けになるよう、干しヒジキを水で戻し、ゆでたり油で炒めたりしたときの栄養価も測定。結果は鉄釜・ステンレス釜ともに乾燥状態の約20分の1だった。水で戻すことで重量が増えた分、100グラム当たりの成分値が相対的に減ったとみられる。

違いは産地?

公表された数値に、これまで鉄分の多さをアピールしてきたヒジキ業界からは反発の声が上がっている。

輸入ヒジキを販売する兵庫県の会社は「鉄釜を使わなくなったのは40年以上も前。なぜ今になって再調査なのか」と憤る。商品パッケージに鉄分量を表示する三重県の海産物販売・加工会社は「成分表の数値が正しいと思って使ってきた。収穫時期などによっても栄養成分は変わるはずだが、そうしたことは考慮されているのか」と疑問を呈する。

ヒジキの製造・販売会社などが加盟する「日本ひじき協議会」は今月7日、ホームページに「ひじきの鉄分について」と題した文面を掲載した。

それによると、同協議会は、国産と韓国産、中国産の産地別に鉄分含有量を独自に調査。その結果、国産は100グラム当たり7・7ミリグラムで食品成分表のステンレス釜の数値に近かったが、韓国産は同47・6ミリグラム、中国産は同47・7ミリグラムと鉄釜に近かった。検査した干しヒジキはすべてステンレス釜で作られたもので、同協議会は「釜の材質による鉄分含有量の違いはない」と推測しているといい、今後、産地ごとの鉄分含有量を業界標準とするための研究を進める方針を示した。

摂取基準どう満たす

一方、学校給食の現場にも波紋が広がっている。鉄分は、日々体内で消費されるため、毎日一定量摂取することが大切な栄養素だ。文科省の学校給食摂取基準では、家庭での鉄分摂取が減っていることを考慮し、1日に取るべき鉄分量の3分の1以上を給食で供給するよう求めている。鉄分は肉類や野菜にも含まれるが、従来の食品成分表でヒジキに含まれる量が多かったこともあり、学校給食の献立を作る管理栄養士らにとって、ヒジキは重宝な食材だった。

栃木県小山市の学校給食ではこれまで、サラダやハンバーグなどにヒジキを入れ鉄分摂取量を満たしてきた。しかし、改訂で鉄分量が大幅に減ったため、献立の見直しを検討中だ。

同市学校教育課食育推進係の飯田悦子係長は「鉄分はビタミンCとともに取ると吸収が良くなる。他の食材も使って効率よく摂取できる献立を考えたい」と話している。

(平沢裕子)

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