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【和食力】みそのうま味 無限の調和 微生物が生む自然の恵み

 塩をまぶした麹(こうじ)と、大豆を煮てつぶした粉、それに減塩用の甘酒麹をたらいで混ぜ合わせる。みその仕込みはこうして始まった。

 和食に欠かせないみそ。かつては多くの家庭が自家製だった。それを体験しようと福岡市の高取保育園(西福江園長)が開く毎年恒例のみそ造り教室に参加した。和食中心の給食など食育に取り組む同園。7月中旬、会場はエプロン姿の親子連れであふれた。

 たらいの中身は十分混ぜて、大豆の煮汁を加えて練る。それを厚手のポリ袋をかぶせた足で踏む。ふらついて意外と大変でうっすら汗をかくほど。全体をよく混ぜ合わせるのが目的だ。

 粘りが出てきたら、こぶし大のだんご、みそ玉にする。結構、力が要る。一緒に作業させてもらった年中組の園児(4)も「だんご作りは面白い」。同園の給食で使うみそは年長組が毎月仕込んでいる。「保育園のみそ汁がおいしいって毎日のように言うんです」と母親(38)。無添加の商品を使うよう心がけているが、蒼史ちゃんの言葉を聞いて参加を思い立ったという。

 熱湯消毒した漬物用のかめなどに、みそ玉を底にたたきつけるように投げ込み、2、3個入れてはこぶしで押しつけていく。空気を抜くのが狙いだ。表面をならして紙(半紙4、5枚)で覆い、端はかめの内側に埋め込む。空気中のカビの胞子が付着するのを防ぐ。

 最後は紙でふたをしてひもで縛れば完成。今後は2週間ごとに中身をチェック、熟成に伴い出る水分を吸い取るための紙を入れ替える。今の時期なら2カ月半で食べ頃という。

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 仕込んだ原料はどうやってみそになるのか。大豆、米、麦に含まれるタンパク質、でんぷん、脂質は、麹菌の酵素によってアミノ酸、糖、脂肪酸などに分解される。さらに糖の一部は酵母、乳酸菌がアルコール、乳酸に分解。これらを発酵という。

 みそ造りのために設定する温度、塩分などは発酵の働きを高めるためだ。温度は20~30度を維持。塩分は雑菌類を抑える。ただ濃度が高すぎると酵母、乳酸菌の発酵も抑えてしまうから、そのバランスをとった量が通常の12%ということになる。酸素には触れないようにするのが基本。やはりカビ対策だ。

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 藤巻さん親子に分けてもらったみそ玉は自宅に持ち帰り、大きめのプラスチックの保存容器に仕込んだ。蒸し煮済みの大豆など材料を準備してくれたのは福岡県みやま市の「椛島商店」。教室で教わった注意点を振り返ると、全ては目に見えない微生物に十分に働いてもらうためだということが分かる。

 みそ造りを実践、麹文化に詳しく発酵に関する著書も多い福岡県飯塚市出身の永田十蔵さん(62)=千葉県在住=は言う。「自然が育む大豆や米などの素材が、麹菌など自然界の微生物によって熟成されていく。私たちができるのは微生物が働ける環境をつくってやり、見守るだけ」。タンパク質やでんぷんを分解するだけなら化学物質や酵素剤で済む。ところが「みその中で生まれる無限とも言える物の調和が、みそのうま味。無数の微生物が生きているところに魅力がある」

 約3カ月後、どんなみそが育っているだろう。自然の恵みがもたらす和食の味わい。今から楽しみだ。

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【ワードBOX】みその栄養と機能性

 各種アミノ酸、カルシウム、鉄などのミネラル、ビタミンB群が含まれる。多くの菌種が生存し、生菌は整腸効果があるほか、発酵で生じる褐色の成分メラノイジンは抗酸化作用があるという。高血圧の原因といわれてきたが、近年は、血圧降下作用があるとされる。


=2015/08/05付 西日本新聞朝刊=

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