猛暑・水不足で長野県の農産物に影響広がる
(信州リポート)
2018年夏の猛暑や降水不足は、農業県である長野県に大きな動揺を与えた。レタスやキャベツなど夏季収穫の野菜は一時収穫量が大きく落ち込んだ。リンゴなどの果実は日焼けや着色不良などに苦しんだ。9月以降は7~8月と比べて収穫量が回復するとみられるが、コメやソバなど秋収穫の作物への影響も懸念されている。
「イチゴ、全滅しちゃったよ」。給食受託サービスのミールケア(長野市)の関幸博社長はショックを隠せない。自社がサービス提供する幼稚園のデザートにしようと、今年からビニールハウスで夏秋イチゴの栽培を始めたが、6月に植えた1200株は7月の猛暑で全滅。9月の収穫を目指して植え直すことになった。
7月から8月前半にかけては、平年よりも気温が高く、降水量が少ない日が続いた。長野地方気象台の長野市の観測拠点では、7月の平均気温は平年より3度高かった。7月中旬は平年では57ミリの雨が降るのに対し、今年はゼロ。下旬も平年の30ミリに対し、4ミリと大きく下回った。夏秋イチゴは猛暑の影響により、県全体で「出荷量が平年の9割に落ちる可能性がある」(県内農業関係者)。
秋出荷の作物を育てる生産者にも不安は広がっている。9~10月の収穫に向けてソバを育てているかまくらや(松本市)は、7月下旬にまいたソバの種の一部が水不足の影響で芽が出なかったという。全体の2割にあたる約14ヘクタール分を8月中旬にまき直したが、「適期より半月遅れたため、実るか心配」(田中浩二社長)。
県内でも上質なコメがとれる産地として知られる飯山市。ただ、7月上旬から1カ月程度、ほとんど雨が降らなかった。コメ農家の金崎隆氏は「穂が出る時期に雨が降らなかったので大変だった。8月中旬の恵みの雨でなんとか持ち直した」と話す。
今後心配するのは、高温で早まっている収穫期だ。適切な時期に収穫できなければ、粒が割れる「胴割れ」が起きやすくなる。今年は収穫を1~2週間早める予定という。
上田市で大豆などを育てるずくだせ農場も、「大豆の花が咲くのが例年より早く、ちゃんと実がつくのか心配だ」と気をもむ。
県特産品のリンゴは「全体の5~10%程度が日焼けや肥大不良などの被害を受けたのではないか」(県内農業関係者)。8月上旬に市場デビューしたリンゴ「シナノリップ」は県独自品種で最も収穫期が早く、高温でも真っ赤に色づくことが特徴とされるが、予想を超える酷暑で色づきが遅れ、初出荷された商品には日焼けの跡が目立つものもあった。「非常に生産者が苦労した」(JA全農長野)という。
県農業技術課は「今後こういった気象条件が当たり前になるようなら、遮光ネットで(リンゴなどの)園地全体を覆うことなども検討しなくてはならない」と話す。
野菜価格は落ち着き
農林水産省の調べでは、キャベツやレタスなどの全国の平均価格は7月後半に急上昇したものの、8月後半からは下落傾向だ。8月中旬に雨が降ったことなどで、出荷量が回復してきたとみられる。
レタスは7月30日の週には平年より61%高い1キログラム573円だったが、8月20日の週は平年比1%安い430円だった。青果卸の長印(長野市)は「キュウリやトマトはまだ高めだが、レタスやキャベツは落ち着いてきた」(倉崎浩社長)と話す。
県農政部も「(酷暑による被害報告が上がっていた)ブロッコリーや白菜の出荷は9月には回復するだろう。果物の色づきも進む」とみる。
高温少雨がプラスに働く作物もある。病気や果実が割れる原因となる雨が少なく、ワイン用ブドウを栽培するワイナリーからは今年の出来に期待する声が上がる。楠わいなりー(須坂市)の楠茂幸社長は「(9月以降も雨が少なければ)今年は良さそうだ」と話す。
(北川開)