“日本一の学校給食”の理由に迫る 「全国学校給食甲子園」優勝、埼玉県越生町立越生小学校(3)

腹話術の人形を片手に越生町の自然のすばらしさを伝える栄養教諭の小林さん
〈栄養教諭と調理師が互いにこだわりを出し合って給食を良くする〉
小林さんの情熱は優勝の一つの要因であることは間違いない。しかし、それだけでは決してないだろう。なぜなら、給食は栄養教諭1人で作るものではないからである。

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越生小学校で作られる給食の数は約500食。小林さんが作った献立を、三好チーフをリーダーに㈱東洋食品の調理師10 名(社員4 名・パート従業員6 名、配送員含む)が作っている。こだわりのある手づくりの献立を毎日、お昼までに安全・安心に提供するためには、栄養教諭と調理師の連携、調理師同士のチームワークが欠かせない。「栄養教諭と調理師が“ お互い様” の気持ちで作らないと、良い給食はできません。独りよがりではダメです。チーフは調理へのこだわりをたくさん持っています。そのこだわりを共有することが大事です。毎日、お互いのこだわりを出し合いながら、給食を良くしています」。(小林さん)

小林さんと三好チーフは3 年間一緒に給食を作っているが、同じハンバーグでも回を重ねる度に進化しているという。それを実現しているのが三好チーフの提案力だ。固ければ「もっとやわらかくした方が美味しいから牛乳を入れましょう」、ソースの味が濃いと「ケチャップの味を抑えましょう」と提案。少しずつ改善した結果、完成形に近づいているという。「栄養教諭の思いが一方通行すぎると、チーフは何も言えなくなります。チーフのこだわりがなくなるのは嫌です。私も以前、調理師の立場で給食をつくっていたから、チーフの気持ちがよく分かります。できるだけチーフのこだわりを言いやすい環境にして、給食室の調理師の皆が本領発揮できる環境づくりをしています」。

小林さんは給食調理室を訪れた際、パート従業員の方にも「頑張ってね」「一緒に美味しい給食にしよう」とやさしく声をかけるそうだ。「学校給食の調理業務は受託業務なので、チーフは、『和して同せず』を貫き、お互いの立場をしっかり線引きしてくれます。それでも、給食を良くするため、こだわりをしっかり伝えてくれるのは心強いです」。(小林さん)

三好チーフに話を聞くと「小林先生がいつも気をかけてくれるので仕事はとてもやりやすいです。新学期で初めて作る献立があれば、作りながら味を整え、自分の意見も取り入れていただき、先生にちょうど良い味を見つけていただいております」と語った。すると、小林さんは「昨日も、チーフから声をかけて頂きました。麻婆豆腐の硬さのこだわりです。「豆腐の茹で方を変えて、水の切れ方が違うので、でんぷんの量を見てくださいと言うのです。同じ献立でもさらに良くなるよう工夫してくれます」。

それに対して、三好チーフは照れながら、「豆腐を沸騰した釜にザルごと入れて茹でるのと、釜に直接豆腐を入れて茹でるのでは、茹でた後の水の切れ方が全然違います。さらに美味しくて、喜んでもらえる給食を作りたいため、そういうひと工夫を大切にしています」と調理にかける思いを語ってくれた。

二人の掛け合いは続く。「昨日も、味見させてもらった時に、『チーフのこだわりを大変美味しくいただきました』と伝えました。というのも、麻婆豆腐に使う豆板醤の量を高学年と低学年で分けて、2 釜で煮て、辛さを調節してくれたからです。低学年は辛いと残菜になってしまいます。それを防ぐため、手間をかけてくれました。チーフはいつも細かい努力をしてくれます。そして、それを他の調理師さんに伝え、給食室皆で一生懸命、給食を作ってくれます。チーフの人柄があり、よくまとめてくれているといつも感心します」と小林さん。「いつも給食室を見守ってくれて、助かっています」と三好チーフ。

二人の会話をきくと、互いに信頼しながら仕事をしているのがよく分かる。小林さんは語る。「調理業務が委託方式か直営方式かは問題ではありません。そこで働いている方のチームワークが大事です。給食に携わる方が皆、『誰でも喜ばれる給食にするために』協力する気持ちが大切です」。

給食室に届いた子どもたちからの感謝の手紙(給食甲子園優勝をお祝いする言葉や、越生町の梅や柚子が大好きといった声、中には給食調理員になることが夢と語る言葉も)

給食室に届いた子どもたちからの感謝の手紙(給食甲子園優勝をお祝いする言葉や、越生町の梅や柚子が大好きといった声、中には給食調理員になることが夢と語る言葉も)

取材を通して再確認したことがある。美味しさには味や見かけ、香り、食材の品質、調理方法など様々あるが、もっとも大事なことは「この料理を美味しく作りたい!」という給食に関わる皆さんの熱意とチームワークだ。越生小学校の給食について、楽しそうに話す2人の言葉の節々にそれを強く感じた。その思いの集積が給食甲子園優勝という快挙を導いたに違いない。今後も、地産地消を大切に栄養教諭と調理師で力を合わせて作る給食は、子どもたちの生きた教材となり笑顔を作り出すだろう。〈この項、了〉

取材記者:三浦。給食専門誌「月刊メニューアイディア」担当。給食とアートをこよなく愛する敏腕記者(自称)。奈良出身の愛犬家。

〈給食雑誌 月刊メニューアイディア2018年6月号より〉