大磯町立中給食休止 保護者ら混乱深まる 新たな委託先、進展なし 神奈川

 ■再開めど立たず

 大磯町立大磯、国府両中学校で昨年導入された「デリバリー方式」の弁当給食が大量に食べ残されていた問題。家庭の事情などで給食を希望していた保護者らの混乱は深まっている。給食導入から約1年半の間、生徒からは「冷たい」「まずい」などの声が寄せられていたが、髪の毛や虫などの混入が相次いで見つかり、町は製造業者から「継続は困難」との申し出を受けて納入を10月13日に休止した。同16日から全生徒755人(同1日現在)に弁当持参を求めているが再開のめどは立たない。(王美慧)

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 「弁当を作るのは大変。だが、おいしくない給食を孫が我慢して食べ続けていたと知ったとき、とにかく心苦しかった」と町内の女性(73)は言葉を詰まらせた。給食が休止になり、女性が毎朝食べ盛りの男子中学生2人の弁当を作る。「自分の負担よりも、ただ孫が喜んでくれれば」と思う一方、「家庭の事情で自分だけ弁当がないことで、つらい思いをさせたくない」と理由を打ち明けた。

 町は代替業者を探すなど具体的な対応が決まるまでは、弁当持参やコンビニエンスストアの利用を許可するなどして対応している。

 ◆「妥協案」不満も

 給食は中崎久雄町長が掲げていた選挙公約に基づき昨年1月12日に開始。町は給食の導入について、保護者らにアンケートを実施し、約8割が賛成していた。ただ、「温かい食事を食べさせたい」など、多くは校内で調理する「自校式」を希望していたが、両校の施設整備などに約4億5千万円かかり、町の財政状況などを理由に断念。初期費用が約1千万円で済むデリバリー方式を採用した。

 綾瀬市内に調理施設を持つ製造業者「エンゼルフーズ」(東京)に調理と配達を委託し、デリバリー方式の給食を導入。町の栄養士の指示に基づき献立を決め、食中毒防止のため、調理後30分以内に20度以下の温度に下げ、約20キロ離れた弁当工場から配送していた。

 保護者からは「弁当を作る負担が減る」という声がある一方、「デリバリー方式は妥協案だ」「温かいものを食べられないなら弁当のままでいい」などと選択制を求める意見も寄せられていた。

 ◆初日から異物

 異物は初日から混入していた。町によると、今年7月までの間に毛髪39件、繊維14件、虫10件など、混入が計84件。そのうち、製造業者の弁当工場内での混入が明らかなものは、ビニール片などの計15件。生徒からも「冷たい」「味が薄い」といった苦情が続出していた。だが、給食の食べ残しが続いていたにもかかわらず、町が弁当工場を立ち入り調査したのは、異物混入が確認された初日から1年以上経過した今年2月の1回。多くは「原因や混入経路が分からなかった」として、業者任せの対応が続いた。

 県は9月19日、食品衛生法に基づき、弁当工場で2人の職員による立ち入り調査を行ったが、衛生面などで大きな問題は確認されなかった。

 しかし、県内では同じ製造業者の弁当で異物混入が続々と発覚。横浜市が実施している中学生向けの配達弁当「ハマ弁」で、昨年11月ごろから今年9月ごろまでの間に、虫など7件の異物が混入していた。「今までも指導はしてきたが、改善の見込みが乏しい」(同市)ため、10月16日に製造業者を変更した。相模原市内の市立中でも、平成23年ごろから異物混入が続いていたといい、一昨年4月ごろから今年7月末までに少なくとも55件、異物が見つかっていた。

 ◆業者側「継続困難」

 一方で製造業者は、取引先などに対し、町や生徒側に責任を転嫁しているように受け取れる文章を配布。「大磯中学校給食報道について」と題して、「給食反対派のリークで騒ぎになった」「半ば強制的に始まった全員給食」などと記載し、町の取り組みを非難。一方、都内にある製造業者の本社担当者は「管理が行き届いていなかったことを、重々反省している」と釈明した。

 一連の騒動を受け、中崎町長が町議会で「痛恨の極み」と謝罪。製造業者との契約解除に向けて動き出していた中、製造業者側から「継続困難」との連絡があった。町は新たな委託先を探しているが、これまでに大手3業者から契約を結ぶのは「リスクが大きい」と断られ、いまだ進展はないという。

 開始から2年足らずで中断された給食。関係者は「弁当を作ってあげることができない保護者もいる。一日でも早く、給食を再開してほしい」と願う。一方で保護者からは自校式を求める声も根強く、町の真摯(しんし)な対応が求められるが、打開策は見当たらない。

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 ■デリバリー方式の学校給食

 委託先の民間事業者の調理施設で調理され、学校へ配送される給食。栄養バランスを考慮し、安全・安心な給食とするため、栄養士が献立を作成し、調理した給食を個別のランチボックスに入れている。施設整備は最小限となるため、初期投資額が比較的安価に抑えられ、短期間での導入が可能。業者選定と衛生管理の指導が必要となる。

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