年の瀬記者ノート

集団食中毒 食への責任伝える重さ痛感 静岡

 「浜松市内の複数の小学校で、1千人近くの児童が下痢や嘔吐(おうと)で集団欠席しているらしい」。1月16日、県庁で熱海の芸妓(げいぎ)さんを取材していたときに突然飛び込んできたニュースは、まさに寝耳に水だった。

 学校またがり発生

 浜松へ向かう新幹線の車中では、「なぜ学校をまたがって集団欠席が発生したのか」という疑問が頭に浮かんでいたが、同日の市の会見でも、「給食はそれぞれの学校で加熱調理されており、まだノロウイルスによるものかは断定できない。感染症なら学校以外にも広がるし、食中毒なら他の学区でも出るはずだ」という煮え切らないもので、もやもやは晴れないままだった。

 集団欠席の起きた小学校の給食献立を調べても、感染の原因となったと思われる14日の給食は「タラのミカンソースあえ」や「シラス入りオムレツ」といった、各校ごとにバラバラのメニューが並んでいた。その後、市は「加熱を要しない、パンや牛乳、クリームなどの共通食材の可能性が高い」と分析。パンや牛乳は県学校給食会が学校に納入していたことも判明した。

 18日になって、「パンによる食中毒の疑いが強まった」として給食パンを製造した菓子製造業「宝福」(同市東区)に市保健所の立ち入り調査が実施され、同社のパンを原因食材と断定。各校をまたがる大規模食中毒の原因もようやく明らかになった。

 21人の欠席者が出た市内の小学校で、取材に応じた校長の「学校給食に提供される安全第一の食材が、なぜこんなことになるのか」という怒りの言葉には強く共感した。だが一方で、市保健所の調査で、同社の製造工場では1枚1枚食パンを手に取り、異物がないか検品していたことも明らかになっており、「学校給食用の丁寧なチェックが裏目に出た」という同社の説明には、複雑な思いも抱いた。

 忘れられた「教訓」

 とはいえ、15校が学校閉鎖となる「異常事態」(市生活衛生課)を招いた集団食中毒の教訓は、いとも簡単に忘れられていた。

 今年7月に静岡市で行われた安倍川花火大会で、露店で販売されていた冷やしキュウリを食べた客が、腸管出血性大腸菌O(オー)157による集団食中毒を発症。発症者は、二次感染を含めると過去10年で全国最多となる518人を数えた。販売までの数時間の間、キュウリを常温で保存するなどずさんな衛生管理の実態も明るみに出たが、市保健所は「感染経路の特定ができなかった」として業者の責任は追及されないままだ。食に携わる人間の責任の重さを訴えていく必要性を改めて実感した1年だった。(村嶋和樹)

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【用語解説】浜松集団食中毒

 1月15日、浜松市内の小学校などで、児童や教職員ら1千人以上が下痢や嘔吐の症状を訴える集団食中毒が発生した。市保健所は給食のパンを製造した菓子製造業「宝福」(同市東区)に対して実施した立ち入り調査で、工場内の女子トイレやパンの検品作業などを担当する女性従業員4人の便から、食中毒患者の便と同型のノロウイルスを検出したことから、同社のパンを原因食品と断定した。患者数は最終的には1271人に達し、県内で過去3番目、同市内で過去最多の大規模な食中毒となった。

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